魔王の処刑人

棺の魔王の外伝的作品。原題は「棺の魔王０ -魔王の処刑人-」。

その名の通り棺の魔王の前日談的内容だが、一つの独立したストーリーとして非常に完成度が高い。

生物を不老不死の存在にする古代文明の秘宝「不死の水」をめぐる秘境探検物語、と聞けば王道ライトファンタジーの予感もするが、実態はきわめてシビアなサバイバル・ダークファンタジー。

知恵と実力のない者は容赦なく大自然と獣の餌食となる世界観が、処刑人の主人公や殺人鬼のバディキャラが用意された理由をいやがおうにも読者に理解させてくる。

過酷な自然と人食いの猛獣、生物学的なリアルさを持つ魔物に立ち向かい、秘境の最奥を目指す主人公達。その戦闘描写もさることながら、生存のためのサバイバル描写が多彩で面白い。

ファンタジー世界の御都合主義を一切利用せず、現実で通用する水や食料の確保方法や火の起こし方、獣から身を守るための防御法などを披露してくる。

かといってただ雑学を連ねるわけではなく、主人公たちが生存するために必要な知識をその場その場で的確に選んで手短に描写するので間延び感がない。漫画のゴールデン・カムイや、ベアグリルスのサバイバル・ゲームの面白さに近いかもしれない。

本筋はヒロイズムに彩られたバトルアクションともヒューマンドラマとも言える内容で、登場キャラ同士の因縁や確執からも目が離せない出来。

書籍版はヒーロー文庫から「魔王の処刑人」として出版されており、web版は「棺の魔王」のページ下部から読むことができる。