棺の魔王（コフィン・ディファイラー）

小説家になろうでは多くの異世界転生ファンタジーが人気を博しているが、その多くが、たとえばテレビゲームのドラゴンクエストや、テイルズシリーズのようなライトファンタジーの世界観を基にしている。

色鮮やかなデザイン性に富んだ剣や鎧を持つ主人公（多くは勇者や選ばれた英雄）が、仲間達とともに強大な魔法やスキルを駆使して魔物や魔王と戦うという作風で、RPGが出現した８０年代以降今なお根強いファンを持っているジャンルだ。

だがこれらは普通の人間や、特に年齢の低い少年少女が強大な力を得て英雄的活躍を見せるという筋が多い反面、結構な頻度で良くない力の使い方をする主人公や、悪用する勇者が現れる。

よりリアルな人間描写や少年としての精神の未成熟さを描写するため、あるいは単に好き勝手に力を使う主人公の無双さに読者を感情移入させるためなど、理由は多々考えられるが、とにかく一年に一回はファンタジー作品の主人公の人格や行動の是非を問うネット記事が掲載され、場合によっては派手に炎上する。

前置きが長くなったが、この記事で紹介するコフィンディファイラーはそんな「力の使い方を誤った勇者」を描いた作品だ。

本来善玉であるべきファンタジー主人公風のキャラが、人類には対抗できないほどの魔術や装備を駆使して大軍団を作り上げ、欲望のままに人々を屈服させる。

自分にとって都合のいい正義や人道を掲げ、まるで勇者が魔物達に大してするような「勧善懲悪」の戦いを、人間に対して敢行する。

そんな狂った英雄譚に滅ぼされつつある世界で、等身大の人間達が繰り広げる抵抗を描き、さらに魔王と呼ばれる男の物語をつむぐのが、本作のストーリーだ。

善良な心を完全になくしたファンタジー主人公の脅威に、虐げられる人々の側に立つ魔王が挑む。

一風変わったファンタジー小説である。ライトファンタジー好きにこそ読んでもらいたい。

*2016年3月30日ヒーロー文庫より書籍化

*外伝の棺の魔王０が「魔王の処刑人」と改題し書籍化