ばいめた！～楽師トールの物語（サガ）～

ヴァイキングメタル好きのギタリストである主人公が、挫折の果てにあてもなくさまよっていると、突如本物のヴァイキング船と遭遇する。

非常事態ながらも夢破れてやけになっていた主人公は、得体の知れない船に乗り込んで行き、連れられるがままに時空をくぐる。

着いた先はなんと９世紀の北ヨーロッパ。過酷な乱世で主人公の第二の人生が始まる、という物語。

現代知識を持った人間が過去の歴史に介入する筋だが、けっして知識無双だとか、古代人をゆうゆうと現代技術で出し抜くといったのんきな話ではない。

乱世は厳しく、荒々しく、時に剣を取って敵と戦わねばならない。強く、自分の生き方や死に方と真正面から向き合う現地人達と触れ合いながら、主人公は少しずつ成長していく。

自作ギターの製作などから始まる主人公の再起は、王道ながらもしっかりと組み立てられた重厚な物語として読者の前に展開される。

この作品の魅力は多々あるが、特筆すべきは徹底的に追及される時代考証。９世紀のヨーロッパの文化、地理、世相などが隙なく詰め込まれており、なんちゃってでは済まさないリアルな描写が作品に命を吹き込んでいる。

一つのファンタジー物語としてだけではなく、実際に存在した過去の異国の匂いを感じることができる、珠玉の疑似体験物語とも言えよう。